設立の趣旨

故 米山文明博士は 耳鼻咽喉科学教室で音声言語医学を修め、発声と呼吸について研究をするとともに、クリニックで治療にもあたり多くの患者さんを診てきました。そして実に多くの人が声の問題を抱えていることを知るとともに、その対処に悩んでいることも知りました。
よい声を作るためにはよい呼吸が必須です。すなわち呼吸法と発声法をつなげることが必要であることが分かってきたのですが、息と声をどのようにつなげば最も効率が良いか。呼吸法だけに熟練しても必ずしもよい声が出るとも限らず、また発声法のみに優れていても、必ずしも効率よい呼吸をしているとは限りません。しかしながら日本には明治以来義務教育から専門教育まで正式の発声教育を受けられる教育機関もなければ、具体的な訓練の実践の場もありませんでした。そこで診察・治療と並行して声と体の関係についての研究を進めるとともに、多くの音楽大学・教育大学などで講義をしてきました。
よい呼吸と発声は「声」を仕事としている人に限らず、多くの一般の人が抱えている問題でもあります。また正常な発声機能を持つ人はもちろん、声のハンディ(音声障害)をもつ人々の問題でもあります。そこで1987年に「呼吸と発声研究会」を創設し、また根源的な「声づくり」の実践的な場として「研究会」の中に2001年12月に「呼吸と発声研究所」を設立して、呼吸と発声の具体的方法を講習するとともに、指導者の養成も行ってきました。呼吸法ではベルリンのミッテンドルフ研究所が斯界では有名ですが、その研究所出身のマリア・ヘラー・ツァンゲンファイント女史がパートナーとなり、実践と指導も得られるようになりました。
2002年以来「呼吸と発声研究所」は研究と啓蒙のかたわら呼吸と発声の講習を行ってまいりました。
現在もヨーロッパATTからの支援もあり「呼吸と発声」の諸問題に取り組み、意義ある活動を進めています。

呼吸と発声研究会
の歩み

音声障害をおこさないため、および生来の声をより良くする発声法はないものか? 米山文明のこの疑問が出発点でした。1965年東京・渋谷に診療所を開設、以来多くの患者さんを診療しながら考えたのが始まりです。
1987年に声楽家平山美智子とマリア・ヘラーとの出会いがあり、「呼吸」と「発声」の連結方式の重要性を感じ、このメソードを広めるため、1987年から1999年まで計10回の講演会と講習会を続けて開催しました。
1993年から1999年の間、米山章子はA-T-T(Atem-Tonus-Ton)実技勉強のため、マリア・ヘラーのInstitut für Atemlehre Oberstdorf(ドイツ)に通う傍ら、マリア・ヘラーを東京に招聘し講習会、ビデオ制作、臨床実験など共同研究を重ねてきました。並行して都内各所においてA-T-Tの実技指導を行ってきました。
2001年12月、東京・渋谷に「呼吸と発声研究所」を設立し、歌手、俳優、教師その他あらゆる分野の声の使用者を対象に、呼吸から声につなぐワークであるA-T-Tを教え始める。

米山文明
(1925〜2015年)
プロフィール


1950~1965年東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室で、音声言語医学を専攻。医学分野においては、1956年日本音声言語医学会設立に参画、幹事に就任。1957~1961年東京大学医学部文部教官。1959年東京大学医学部より学位授与(医学博士)。1965年より東京渋谷に診療所を開設。1972年以降日本音声言語医学会評議員及び常任評議員を多年歴任。1981年以降Comet(Collegiums Medicorum Theatri)メンバー、1983年以降IALP(International Association of Logopedics and Phoniatrica) メンバー。学術論文、著作、学会発表を多数医学専門誌(日本耳鼻咽喉科学会誌、音声言語医学学会誌に論文、医学書出版社より著作)に発表。さらに発声、発語教育分野においては東京藝術大学、桐朋学園大学、沖縄県立芸術大学、作陽大学客員教授などの教職を務める。また 日本声楽発声学会理事長、日本音楽教育振興協会会長を就任。声と体の関係についての研究、『呼吸と脳波』『発声と体壁振動』『サーモグラフィ』『音カメラ』などの実験を行なう。主な著書に『プリマドンナの声帯』(朝日新聞社)、『声と日本人』『声の呼吸法―美しい響きをつくる』『美しい声で日本語を話す』(平凡社)、DVD『声の不思議―美しい声を作るために』『声の発育―美しい声を育てるために』『息から声へ―マリアの呼吸法』(音楽之友社)などがある。2015年3月31日逝去。